鎌倉高徳院にて
おおぼとけ膝うずむらむ花の雪 ― 其角
ある十一月の寒い日。裸の桜の木々の間を
歩きながら友人である青井夫人と私は
私が何千回も夢みた寺院に向う
小道に沿って遊ぶ彼女の子供たちを見つめている
私の心のなかの五月の無数のやわらかな花々は
誰にもわかりはしない
いずこも茫洋としていて
大仏の周辺の大気は輝き
ホワイトスターの花びらの小片は漂い流れ
私は大仏のやさしい視線をみつめている
青井夫人は笑いながら駆けよってくる
子供たちに呼びかける
「電車の時間よ。」
時間 ― この一瞬、この光り輝く瞬間、
永遠。
「帰りの電車に乗る時間」
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